弁理士のひとりごと~この本を読んで(2)

 

 今回は、「黄色い部屋」(一般には「黄色い部屋の謎」)(ガストン・ルルー著)について話したい。密室「黄色い部屋」で起こった不可思議な犯罪の謎解きに挑む探偵記者等のお話。なお、著者のガストン・ルルーは、「オペラ座の怪人」の方で知名度が高いのではないかと思う。
 私は、小学校の図書室にあった探偵シリーズ物のうちの一冊として、「黄色い部屋」に出会った。今から思えば、少年少女向けにアレンジしてあったとしても、あまり小学生向けのストーリーではないような気がするが、教師にこうした小説分野に強い興味を持った方がいたのかなあと思う。
 この本では、古城の邸宅の離れにある黄色い部屋にて高名な学者の令嬢が重傷を負うという惨劇が発生したが、この部屋は完全な密室で、しかも、悲鳴の直後に学者等が駆けつけて突入したドアはほとんど逃走経路と考えられない。つまり、密室に忍び込んだ犯人が犯行後蒸発したかように消える不可能犯罪の事件を扱っている。見方を変えれば、孤立していると思われる系内の事象に対して外部から作用を及ぼすことができるか、できるとすればどうするかという問題を扱っている。「どうだ謎が解けるかね」と作者から挑戦を受けている気がしてくる本である。
 ところで、発明の分野でも、技術的な不可能性について議論される場合がある。例えば永久機関である。外部からエネルギーをもらわずに外部に仕事をし続けるタイプの永久機関は、熱力学第1法則(エネルギー保存則)により実現不可能であるといわれる。また、熱力学第2法則(エントロピー増大の法則)によれば、ある閉じた系において、その系内に熱源があってそこからの熱を仕事に変えたとき、この仕事によって生じた熱を100%の効率で熱源に回収することはできず、閉じた系内で永遠に仕事を続けるタイプの永久機関も実現不可能であるといわれる。
 私自身の経験でも、永久機関と称する発明を扱ったことがある。このような場合、永久機関だから出願は無理という態度は、好ましくないと考える。例えば一見永久機関に見える動作であっても、真の永久機関としてでなく、水飲み鳥のように恒久的に動作する場合があり、このような技術は発明(特許法2条第1項)として成立し得る。時として我々は謎解き又は技術解釈のお手伝いをしなければならなくなる。
 私は、代理人として、いたずらに出願を煽ってはならないと思う反面、永久機関がナンセンスと決め付ける態度もいかがなものかと思う。従来の技術常識にとらわれ過ぎることにより、新原理に基づく革新的発明を否定することにならなければと一抹の不安を覚えるのである。発明の最終的価値判断を行うのは私でなく社会であることを肝に銘じるべきである。

福田